【第57回】水品レシピが開くとびら 耐次亜塩素酸めっき(2)学生として、開発課の一員として
- 水品レシピが開くとびら 耐次亜塩素酸めっき
サン工業が次亜塩素酸に対して耐久性のある無電解めっきの研究を神奈川大学工学部(現化学生命学部)松本研究室と共同で始めたのは2016年のことだ。
そう、薬品耐性のある電解めっきエスプロテクトMシリーズが日の目を見ようとしていたとき、同様の機能を有する無電解めっきの開発も動き出していた。
ここで電解めっきと無電解めっきのおさらいをしておこう。
電解めっきは電気を流すことでめっき処理したいものの表面に金属を析出させる。電解めっきのメリットとして、処理時間が短いこと、めっき厚を厚くできること、コストが小さいことが挙げられる。ただし、複雑な形状に均一にめっきをつけることは難しい。
一方、無電解めっきは化学反応によって金属を析出させる。だから化学めっきの異名もある。そのメリットは、複雑な形状の内部にも均一にめっきできること。
治具等がいらないこと。デメリットは電解めっきのメリットの裏返しである。膜厚に限界があり、処理時間が長く、コストは電解めっきより大きくなる。コストが大きくなるのは、主に浴(液)の管理が難しいことによる。
※無電解めっき初級編もぜひご覧ください
次亜塩素酸や過酸化水素水で消毒を行う部品や、それら薬品を生成する装置内部で使われる部品には、複雑な形状やめっき後の寸法精度の高さが求められるものもあるはずだ。そんなニーズに応える技術を確立することで得られる果実は、無電解めっきのこうした弱みを補って余りある。
サン工業開発課と開発に携わった神奈川大学松本研究室には、熱い思いでこの課題に取り組む一人の学生がいた。それが水品愛都さんだ。横浜生まれ、横浜育ち、生粋のハマッ子の水品さんは、高校卒業後も地元の神奈川大学工学部(当時)で進む。そして、松本太先生のもとで学んだ最後の年に、サン工業との共同研究が始まった。ただ、彼の在学中に耐次亜塩素酸に優れた電解めっきは完成しない。
奇縁とはこのことか。卒業後はものづくりに携わりたいと望み、本人いわく「いくつかあった選択肢のひとつとして結果的に入社した」サン工業で2年間の現場研修を終えた後、開発課の一員となった彼は、学生時代に触れたテーマに再び取り組むことになる。まるでこのテーマ自体が、彼の再登場を待っていたかのようだ。
先に触れた通り、無電解めっきは浴(液)の管理が難しい。水品さんらが確立しためっき技術は、液にニッケルとスズを配合した2層めっきになっているが、開発の道のりは平坦ではなかった。耐次亜塩素酸の効果を引き出すために、さらに無電解めっきとはいえ寸法公差を10μmにおさめるために、2種類の金属の成分量をどう調整するか、添加剤は何をどれほど加えるか、温度や撹拌などめっき条件はどうか、それぞれの最適値を求める地道な作業が続いた。
*次回「水品レシピが開くとびら 耐次亜塩素酸めっき(3)」

