【第56回】水品レシピが開くとびら 耐次亜塩素酸めっき(1)薬に強い無電解めっきを
- 水品レシピが開くとびら 耐次亜塩素酸めっき
新型コロナウイルスの感染が拡大していたころ、手指の消毒用アルコールが不足し、その代わりとして次亜塩素酸水が出回ったことがあった。本当に代替できるのか、そもそもアルコールとでは役割分担が違うんじゃないのかなど、話題になったのを憶えている人も多いかもしれない。
さて、本連載のテーマは、耐次亜塩素酸めっきである。特に次亜塩素酸ナトリウムに対して優れた耐薬品性をもつこの技術の開発秘話を書こうと思う。しかし、親譲りの化学音痴で子どものときから損ばかりしている筆者は、薬品名に「次」とか「亜」とか付くだけで拒否反応を起こす。
さらに、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムの違いも分からない。困り顔を憐れんで、開発課と営業課の課長を兼ねる河合陽賢さんとこの物語の主人公である開発課の水品愛都さんが助け舟を出してくれた。「消毒・殺菌剤という意味で両者は同じで、次亜塩素酸ナトリウムの方は家庭用漂白剤だと思ってください。」
ただし、製法や成分が異なるため、家庭用漂白剤を薄めても次亜塩素酸水になるわけではないらしい。
お二人のお陰できっかけを得た。心もとない船頭も流れに棹さし進めそうだ。
コロナ禍で注目された次亜塩素酸水や、家庭用漂白剤として長らく使われている次亜塩素酸ナトリウムは、消毒・殺菌効果は優秀だが、金属にとっては非常に厄介な薬品である。触れるとすぐに腐食してしまうのだ。金属が腐食してしまえば、こうした薬品を扱う医療機器や、あるいはこれら薬品を製造する現場は困ってしまう。
なるほどステンレスを使えば腐食はしない。
だが、ステンレス部品は材料が高いうえに、加工に手間がかかりコストが高くつく。また、比重の大きいステンレスは部品が重くなり、使う場所が限定される。他の金属にめっきした方が有利だ。
ところが、次亜塩素酸に対して耐久性のあるめっきは今までなかった。耐薬品性に優れる高リン無電解ニッケルめっきでも効果は認められない。

こんなときサン工業の社員は言う。“Yes, I can”と。
2017年、同社はすでに滅菌清浄に使われる過酸化水素ガスや過酸化水素水に耐性のある「エスプロテクトM」と、医療用機器の洗浄に使用されるアルカリ系洗浄剤への耐性をもち、次亜塩素酸ナトリウムにも耐えられる「エスプロテクトM2」を世に出していた。ただ、エスプロテクトは電気めっきゆえ、ノズルや継ぎ手などパイプ形状の内側にはめっき処理できない。また、エッジ部や側面のめっき厚が厚くなる傾向があり、寸法公差や嵌め合いが悪くなる。耐薬品性の高いめっきを無電解でできないか。
そこにはきっと市場ニーズがあるはずだ。こんなときサン工業の社員は言う。“Yes, I can”と!
*次回「水品レシピが開くとびら 耐次亜塩素酸めっき(2)」

